la-colombe-dor
ドーム兄弟
Daum Frères
兄オーギュスト・ドーム Auguste Daum 1853〜1909
弟アントナン・ドーム Antonin Daum 1864〜1930
父ジャン・ドーム(1825-1885)は普仏戦争(1870〜71)の敗北によるアルザス・ロレーヌの割譲で故郷ビッチュを追われ、家族と共にナンシーへ移住し、ガラス工場の経営を始めました。長男オーギュストはパリ大学で法律を学び、1879年に父の事業に参加、見事な商才と経営手腕を発揮します。1885年に父が他界すると、経営はオーギュストが引き継ぎ、さらに1887年にパリの工芸学校、エコール・サントラルを卒業した三男のアントナンが加わって芸術面を担当するようになります。当初、父の工場では実用的なガラス食器を製造していましたが、1889年のパリ万博でのエミール・ガレの成功に触発され、1891年には美術工芸品としてのガラスの制作を始めました。優秀なガラス工芸家や画家を採用して、共同作業による質の向上をめざし、また、粉末色ガラスを素地に付着させる「ヴィトリフィカシオン」や、透明ガラスの層の間に装飾を挟み込む「アンテルカレール」など、独創的な技術が開発されました。
1900年のパリ万博ではガラス部門でグランプリを獲得し、ドームはガレと並んでアール・ヌーヴォーを代表する工房のひとつとなりました。なかでもエッチング技法とエナメル彩を駆使する風景や植物の作品は、入念な自然観察と忠実な写生に基づいて制作され、その繊細な美しさは他を圧倒しています。
ドーム社は、第一次世界大戦中は工房を一時閉鎖しましたが、アール・ヌーヴォーからアール・デコ、そして現代へと時代の流行に敏感に対応し、今もなおフランスを代表するガラスメーカーとしてナンシーで操業を続けています。
※アール・ヌーヴォー
“Art”とはフランス語で「新しい芸術」という意。ウィリアム・モリス(1834-1896)の思想を基に装飾美術に革新をもたらしたイギリスの「アーツ・アンド・クラフツ運動The Arts and Crafts Movement」に端を発し、ロンドンからヨーロッパへ広がり、1890年代から1910年代にかけて一世を風靡した美術様式です。フランスではパリとナンシーを中心に流行し、自然を霊感源に曲線を主体とした有機的なデザインを特徴とします。